COVID-19流行下での授乳支援についての声明 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC) |
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2020年5月9日 印刷用PDFは、こちらから |
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【 要 旨 】 | |||||||||||||||||||||||
保健医療従事者が、母親の主体的な授乳の意思決定と気持ちを尊重した支援を行う原則は、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19と表記)流行下であっても変わりません。特に、COVID-19流行下では、母乳育児を実践できるように支援することは、感染防御を含め母子の健康に利点があるだけではなく、保健医療システムに負担をかけないことや、人工乳が必須である母子への人工乳の供給を脅かさないことにも繋がります。しかし、母乳育児や他の授乳方法を支援するにあたっては、COVID-19の流行による様々な医療上や社会的な制約があり、これまで以上に、支援方法の工夫と支援者同士のコンセンサスの形成や連携が求められています。 授乳の支援は妊娠中の早い時期から開始し、産科施設退院後も支援が届くようにします。母乳育児の実践に必要な情報を提供し、授乳に関する不安や心配事に対応し、母親が自信をもって授乳方法を選択できるように支援することが大切です。両親学級や母乳外来のような施設で提供する支援が難しい場合、地域の開業助産師やオンライン診療を行っている医師との連携、動画教材、電話やオンラインで授乳支援を行っているピアサポートグループの活用も検討できます。新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2と表記)感染がわかった後からでは授乳支援やカウンセリングを十分に行うことが難しい場合も想定されるため、授乳についての情報提供と話し合いはできるだけ早い時期から開始し、SARS-CoV-2に感染した場合の授乳方法についても伝え、話し合っておきます。SARS-CoV-2感染または感染疑いがあって出産にいたった場合でも、多くの保健機関や学会が直接授乳または搾母乳による母乳育児を勧めています。どのような授乳方法を取りうるかは、分娩施設の状況等によっても変わるため、必ずしも母親の希望している授乳方法を実践できない可能性があります。希望と現実の乖離による葛藤や不安感など様々な感情への心理的援助も十分に行います。家庭などですでに母乳育児中の母親がSARS-CoV-2感染もしくは感染疑いとなった場合、体調が許せば、手洗いやマスク等により十分な感染予防をしながら母乳育児を続けることが妥当と考えられます。 SARS-CoV-2感染もしくは疑われた状況で分娩に至った場合に一律に母子を分離することが妥当であるかどうか早急な議論が必要です。日本の現状では、児の感染リスクの軽減のために母子分離の方針をとる施設が多いことが想定されます。海外ではCOVID-19のみを理由とした母子分離を推奨しない声明も出されています。これらは、入院中に母子分離をしても退院後に他の家族などからSARS-CoV-2に曝露される可能性が十分にあること、母子を一緒にケアし母乳育児を開始、継続することにより母乳を介した児への様々な感染症への感染防御が期待できること、母子分離をした場合の母子の愛着形成や養育に与える影響が大きいと考えられること、などが根拠となっています。日本においても、産後早期の感染予防の観点だけでなく退院後の養育も見据えた議論が必要です。 |
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【 本 文 】 | |||||||||||||||||||||||
2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19と表記)の急激な世界的流行により、科学的知見の蓄積がなく医療資源が十分に分配されていない中で、母子の診療や支援に当たっているすべての保健医療従事者に敬意を表します。私たちは、多職種による母乳育児支援の専門家集団として、授乳についての母親の主体的な意思決定と実践を支援してきました。母子を中心に据える支援においては、保健医療従事者の深い洞察力とコミュニケーション技法に加えて、適切な支援を提供するための最新の科学的知見の理解が大切です。 一方で、COVID-19に関しての科学的知見はまだ限られており、保健医療従事者も母親も時に難しい選択を迫られる場合があります。既知の感染症とは異なり、保健医療従事者自身の安全が脅かされている場合もあります。このような困難の中で、感染の拡大を防ぎながら母親の気持ちを尊重し母子の真のニーズに対応するため、私たちは、保健医療従事者に向けて、以下の見解を表明します。本声明では、新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2と表記)への感染が確認されている母親への支援に焦点をあてると共に、平常時のような対面や集団での母乳育児支援ができない場合の代替手段についても見解を述べます。2020年5月6日時点で入手可能であった情報に基づいており、今後の新たな知見によって必要となれば内容を改定します。 1.COVID-19と授乳:支援の原則は平常時と同じ COVID-19流行下においても、保健医療従事者が、母親の主体的な授乳の意思決定と気持ちを尊重した支援を行う原則は変わりません。COVID-19流行下で母乳育児を支援することは、母子の健康を守ることをはじめ、保健医療システムに負担をかけないこと、そして人工乳が必須である他の母子を守る観点からも重要です。先進国においても母乳育児により各種感染症による児の入院リスクが下がることが知られています1-5。このことは、医療機関への受診が減ること、すなわち、SARS-CoV-2に曝露される危険が低減されることによって母子に利点があるだけでなく、各種感染症による受診や入院に費やされる医療資源の節約6にもなります。海外では買い占めにより人工乳が入手しづらくなった例が報告されています7。混乱した状況において、人工乳が必要な母子に安定して供給されるためにも、母乳育児を望む母親が自信をもって母乳育児にのぞめるように支援することが大切です。 一方で、これまでのところ、SARS-CoV-2感染が確認されている母親の授乳についてはまだ科学的な知見が十分に集積しておらず、広くコンセンサスの得られた「正しい」方法があるとは言えません。母乳そのものからSARS-CoV-2が検出された例は現時点では報告されていない8,9ため、母乳からの感染のリスクは低いであろうと考えられています10。一方で、母乳を与える行為、すなわち直接授乳や搾乳に伴う飛沫・接触感染のリスクと母乳自体の感染防御の利点とを総合的に考えた場合に、どのような授乳方法が児の健康にとって最も安全で利点が大きいのかは、まだ評価されていません。出生直後から母子分離し母乳からウイルスが検出されなくても、母子感染が示唆された例も報告されています11。母乳には、感染防御因子が豊富に含まれていることから、WHOや米国疾患予防管理センター(CDC)など多くの保健機関や学会が、母親がSARS-CoV-2感染した時にも母乳を与えることを勧めています(資料1)。一方で、SARS-CoV-2感染時の母乳育児の実践には、父親など他の養育者の理解と協力、そして感染拡大防止と母子のニーズの両方に配慮した保健医療従事者による支援が必要です。母子にとって最も適した授乳方法は、医療施設や家族の状況によっても異なると考えられます。母親や家族が保健医療従事者と情報を共有した上で、一緒に意思決定をすることが望まれます。 COVID-19が流行している状況においても、母乳育児が母子にとって大切であることは、平常時と変わりはありません。むしろ、母乳育児による母子の健康上の利点は、より重要といえます。しかし、母乳育児や他の授乳方法を支援するにあたっては、COVID-19の流行により様々な医療上や社会的な制約があり、これまで以上に、支援方法の工夫と支援者同士のコンセンサスの形成や連携が求められています。 |
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2.妊娠中からの授乳支援:早い時期から情報提供と話し合いを 母親が自分自身や児の健康に不安を感じやすい状況において、適切な情報提供と気持ちに寄り添った支援を行うことは特に大切です。母乳育児は、母子の健康に利点の大きい栄養方法です12。ただし、利点を強調するのみの一方的な指導は、母親にとって負担に感じられることがあります。どのようにしたら母乳育児が実践可能であるかの情報提供や適切な支援、周囲の理解によって、母親は自分が望むような母乳育児をしやすくなります。母親の気持ちに寄り添った支援を行う方法について、私たちはすでに見解を発表しています12。母親の気持ちに寄り添う支援は、どうすべきかを保健医療従事者が母親に代わって決めることではなく、母親の気持ちを受け止めながら、母親自身の主体的な授乳の意思決定と実践を支え励ますことです13。 授乳についての情報提供やカウンセリングは、妊娠中の早い時期から開始しておくことが重要です。集団での両親学級や母親学級が取りやめとなっている場合、信頼できる教育用動画や電話、オンライン相談を活用することができます。地域の開業助産師や医師が訪問や電話、オンラインでの授乳相談を受け付けていれば、あらかじめ連絡先を伝えておくことも有用と思われます。オンラインで実施されている母親同士のピアサポートグループを紹介しておくことも有用です(資料2)。ただし、人工乳や哺乳びんの製造・販売メーカーによるサイトを保健医療従事者が紹介することは、意図せずに養育者を人工乳の使用に誘導する可能性があり14、また、書かれている内容が必ずしも適切でない場合も見受けられます。サイトを紹介する場合は,商業的な影響を受けていない団体が出しているものか、内容に科学的根拠があるのかに注意します。また、SARS-CoV-2感染が判明した場合、そのあとに十分な授乳支援を実施することが難しいケースも想定されるため、授乳支援については妊娠の早期から開始しておくとよいと考えられます。 SARS-CoV-2に感染した場合の授乳方法についても、母親や家族に情報提供しておく必要があります。出産時の母子の病状や出産施設の状況により、母乳育児を希望していても一時的に母子分離が必要となったり人工乳を与えざるを得なかったりする場合もあります。もし体調が許せば搾乳を続けることで母乳分泌を維持できること、母乳分泌が止まっても後から母乳分泌を再開させる方法(母乳復帰)があること、その場合の支援先を知らせておくことが安心につながるかもしれません。感染後は、保健医療従事者が搾乳の手技を伝えることが難しい場合が想定されますので、搾乳方法も妊娠中に伝えておく必要があります(資料2)。 妊娠中から「念のため」に保健医療従事者が人工乳の備蓄を勧めたり、母乳育児中の母親に「念のため」に母乳育児を中断させたりすることは避けなくてはなりません15,16。たとえ一時的な母乳育児中断であっても母乳分泌が止まることがあり、母乳復帰には母親、児、保健医療従事者の相応の努力が必要となります。さらに、「念のため」に人工乳を勧めることにより、人工乳の方が安心であるとの誤解がその必要のない母親や家族に拡がります。人工乳の需要を急激に高めてしまうと、本当に必要な児に人工乳が行き渡りにくくなる危険も予想されます7。母乳育児を支援することが、ひいては人工乳の必要な母子を守ることになります17。 |
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3.SARS-CoV-2感染または感染疑いがあって出産にいたった場合の授乳支援:授乳方法にかかわらず心理的援助が必要 多くの機関がSARS-CoV-2感染または感染疑いのある母親の母乳育児を推奨していますが、その詳細には各機関でばらつきがみられます(資料1)。医療施設での搾母乳の取り扱い手順についての具体的推奨はこれまでのところ発表がありません。母乳育児を選択する場合の利点と注意点、人工乳を選択する利点と注意点、選択した授乳方法を実践するにあたって考慮すべき条件、について以下にまとめます。 まず、母乳育児を選択する根拠は主に以下の3点が挙げられます。第一に、母乳中からSARS-CoV-2が検出された例はこれまでのところありません8,9。第二に、母乳中の特異抗体や生理活性物質の働きなどにより感染防御に有利であることがこれまでに多くの感染症で確認されている5,18,19ことに鑑みて、SARS-CoV-2について同様の利点があると推察されています。例えば、母親の生体防御機構である気管支小腸乳腺経路により、母親が曝露されている抗原に対応する抗体が乳汁中に分泌されます19。おそらくSARS-CoV-2に対しても同様の免疫応答があるものと考えられています。最後に、新生児が感染から守られなくてはならない病原体はSARS-CoV-2以外にも多くあり、それらの感染リスクを下げ2-5、母乳育児による他の利点も得ることになります。 一方で、母乳を与える際に感染を児や医療従事者に拡げない注意が必要です。母親が直接授乳をする場合には、接触感染のリスクをできるだけ下げるために、新生児に触れる直前の手洗いが勧められています(資料1)。授乳中の飛沫感染のリスクをさげるため、できるだけマスクをして授乳することも勧められています (資料1)。また、石けんと水での乳房の清拭を勧めている学会も散見されます20が、WHOでは、裸の胸に咳をかけたとき以外は乳房の清拭は不要だとしています10。搾母乳を与える場合には、さらに、搾母乳を扱う医療従事者が感染しないための十分な配慮も必要になります。母乳からはウイルスが検出されていませんが、母親の触れた搾乳器具、容器等からの感染に対する注意が必要です。 人工乳を選択する根拠は次のようにまとめられます。第一に、非感染者である別の人が人工乳を調乳し飲ませれば接触・飛沫感染のリスクは低くなります。第二に、児が感染した場合の重症度について、これまでのところ成人に比べて軽症や無症状である場合が多いと報告されていますが21、これについては十分な情報が集積されているとはまだ言えません。従って、児が重症化する可能性を念頭に児がSARS-CoV-2に曝露されるリスクをできる限り回避しようという考えに立てば、母親との接触を完全に断ち人工乳を非感染者が与える選択が採られます。最後に、今後さらに流行が蔓延し医療資源や人員がひっ迫した場合には、搾母乳の取り扱いが困難となり人工乳を選択せざるを得ない状況も考えられます。 一方で、人工乳を選択する場合は、母乳を介した感染防御を児が受けない点に注意が必要です。人工乳を選択し、かつ退院後は濃厚接触者である同居家族も児の養育にあたる予定のケースでは、全ての養育者が調乳・授乳前の手洗いや哺乳器具の消毒等の感染予防と安全な調乳を確実に実践できるように支援しておくことが必要です22。 以上のようにそれぞれの授乳方法に利点と注意点があります。母子の病状や母親や家族の希望、入院施設の医療資源や人員、病室やスペースなどの条件も考慮した総合的な判断により、取り得る授乳方法は絞られると考えられます。母親の希望する授乳方法が必ずしも選択できない場合も想定されます。母乳育児を希望しているにもかかわらず入院中に母乳を与えられない場合には、母親が搾乳を続けることで、後から母乳育児を開始しやすくなることを伝えておくことができます。また、母乳の分泌が低下したり止まったりした場合でも、体調が戻ったあとに母乳復帰するという選択があること、またその支援が受けられる場所や団体を伝えておくことは、母乳育児を希望している母親を安心させる可能性があります。 どのような授乳方法を選択したとしても、心理的援助が大切になります。保健医療従事者などの支援者は、まず母親の不安感や罪悪感などの様々な感情を受けとめることが大切です。そして、感染は誰にでも起きうることで母親の落ち度ではないこと、おかれている状況のなかで母親が児のために最善の選択をし努力していることを支援者は理解していることを伝え、母親の気持ちに寄り添います。 |
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4.退院後の授乳支援について:地域の人材と連携し、オンラインサポートも活用 母乳育児を望む母子に対しては、母乳育児が実践されるように支援していきます。しかしCOVID-19流行により、平常時のような支援方法がとれない場合があります。保健所による新生児訪問での支援、開業助産師による支援は母子の希望に応じて提供されますが、母乳外来での対面の支援、乳幼児の集団健診などを通した授乳支援は難しくなってきています。対面や集団での支援が難しい場合、電話やオンラインで提供されている支援を活用する方法もあります。地域に電話、オンライン、訪問での授乳支援や診療を提供している開業助産師や医師がいれば、連携を検討することもできます。また、母親同士でのサポート(ピアサポート)で、お互いの経験を共有することは、母親が自分自身のやり方に満足して授乳を続けていく上で大切な役割を果たします23。電話やオンラインでも活動している母親同士のピアサポートのグループがあれば、母親に連絡先を伝えておくこともできます。(資料2) 一般に、災害時などの危機的状況下では、母乳育児についての誤った情報が拡がることがあります15,24。また、自分の母乳は安全ではないのではないか、児にとって最適ではないのではないか、という不安が増すこともあります25。逆に、信頼できる保健医療従事者から適切な情報を伝えられることは、母親や他の養育者にとって安心に繋がります。母乳には、母親が曝露されている病原体に対する抗体が含まれるため児を感染から守る意義があること5、母乳育児中に禁忌となる薬は少なくほとんどの薬は摂取してかまわないこと26、一時的に普段のような食事がとれなくても母乳の栄養素にはほとんど変化はおきないこと15,27、などの情報は適切に伝えておく必要があります。集団での乳幼児健診が中止されている地域では、身長・体重の測定と評価がされないことから、母乳が足りているかどうかの不安も大きくなる可能性があります。そのような地域では、おむつの濡れ方や児の活気から児が十分に乳汁を飲めているかを判断する方法28など、家庭で養育者が児の何を観察すればよいのかを改めて確認しておくことも必要です。児の啼泣や乳房の張った感じがないことを母乳不足の証拠と考える誤解がよく見られますので、適切な情報を伝えておく必要があります(資料2、「母乳育児全般」中に母親向けの情報源あり)。 母乳育児中に母親に発熱などがあるもののCOVID-19の診断が確定していない場合、基本的に、ただちに母乳育児を中止する必要はなく、感染予防に留意しながら母乳育児を続けることが妥当と考えられています。前述のとおり、母親のSARS-CoV-2感染や感染疑いにおいては、母乳による感染防御の利点を考え、多くの保健機関が児への感染予防策を講じながら母乳育児を続けることを推奨しています(資料1)。症状や地域の流行状況からSARS-CoV-2感染が疑われるが母の体調から母乳育児継続が許容される場合、児に触る前の手洗いまたは手指消毒、授乳中のマスク着用をした上で、授乳を続けることが妥当と考えられます。もし、母親以外に養育者がいれば、母親ができるだけ児から距離をとって生活し、搾母乳を母親以外の養育者が与えることも提案されています。ただし、重症化リスクの高い祖父母が養育にあたることは感染拡大防止の面から勧められていません(資料1)。 人工乳や搾母乳で養育している場合には、安全に児に与えられるよう支援していく必要があります。平常時と同じく、安全で衛生的な調乳の仕方と乳汁の与え方を伝えます22。COVID-19の流行状況によっては、養育者が軽症や無症状の感染者である可能性も念頭におく必要が出てきます。調乳や授乳前の手洗いの徹底、調乳や搾乳の器具の取り扱い(器具に触る直前に手を洗い、使い終わって洗った後は触らない)、調乳や授乳中のマスク着用など、取り得る感染予防方法も伝えます。 |
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5.出産直後の母子分離に伴うリスクと支援:さらなる議論が必要 日本ではCOVID-19は指定感染症であり、診断が確定している、または疑いのある母親が出産に至った場合、新生児への感染リスク低減のため母子分離の方針をとる施設が現在では多いかもしれません。一方で、産後早期の母子分離は、母乳育児の開始と継続のみならず29、母子双方にストレスを与え29-31、母子の愛着形成に影響する32-34ことが知られています。特にPCR陰性化までに時間がかかる場合、母親の不安や心配は大きいと想像され、心理的援助が不可欠です。また、退院後の養育状況の注意深い見守りも必要です。COVID-19発症患者と保健医療従事者との対面でのコミュニケーションが限られる中、どのように心理的援助が可能であるのか、また、従来の集団健診等による養育状況の確認が中止されている中でどのように退院後の養育を支援していくのか、今後速やかに議論していくことが必要です。 海外の複数の国際機関や学会、専門家は、COVID-19を理由とした一律の母子分離をしない推奨を出しています(資料1)。これらは、入院中に母子分離をしても退院後に他の家族などからSARS-CoV-2に曝露される可能性が十分にあること35、母子を一緒にケアし母乳育児を開始・継続することにより母乳を介した児への感染防御が期待できること5,10,18、母子分離をした場合の母子の愛着形成や養育に与える影響が大きいと考えられること36、母子を別々にケアすることにより個人防護具や隔離用スペースなどの医療資源がより多く必要となること35、などが根拠となっています。日本においても、産後早期の感染予防の観点だけでなく退院後の養育も見据えた上で、今後のCOVID-19流行の状況、分娩施設や保健医療システムで可能な支援の内容、新たな科学的知見等を勘案し、一律の母子分離ではなく、母親・家族・施設の状況に応じた選択が可能となるような議論が必要と考えます。 |
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本声明は、JALC学術事業部のメンバーが中心となって執筆いたしました。執筆者の氏名と所属は下記です。 全員について開示すべき利益相反はありません。 名西恵子(東京大学医学部国際交流室、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻) 稲田千晴(公益社団法人 日本助産師会) 井村真澄(日本赤十字看護大学大学院国際保健助産学専攻) 江田明日香(かるがも藤沢クリニック) 奥 起久子(東京北医療センター小児科) 加藤育子(香川大学医学部附属病院小児科) 黒須英雄(愛賛会浜田病院小児科) 小林絵里子(富山県立大学看護学部母性看護学) 三宮理恵子(ラ・レーチェ・リーグ リーダー) 瀬尾智子(緑の森こどもクリニック) 多田香苗(愛育こどもクリニック) 田中奈美(つくばセントラル病院産婦人科) 所 恭子(産婦人科医師) 中村和恵(国立病院機構岡山医療センター新生児科) 本郷寛子(東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻 国際地域保健学教室) 丸山憲一(群馬県立小児医療センター新生児科) 安原 肇(奈良県総合医療センター新生児集中治療部) 山本和歌子(三重中央医療センター小児科新生児科) 涌谷桐子(沖縄県立宮古病院女性相談室担当医) 和田友香(国立成育医療研究センター病院周産期・母性診療センター新生児科) |
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資料1.COIVD-19と授乳についての国際機関や各学会による推奨 https://1drv.ms/x/s!Am3ibbMdySEggqxr9KcN9uuUsNMsVw 上記リンクより、各団体の推奨内容を確認出来ます。日本語でのサマリーは、2020 年5月5日までに確認した推奨内容に基づいています。詳細については、各推奨を読めるリンクも資料内に示しています。 資料2:授乳のための教材や支援団体
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参考文献
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